矮小

井の中の蛙

続パタ4.5節の式を厳密に計算してみる

「厳密に計算してみる」=「数学弱者なので細かく式変形しないとわからん」の意です。式4.41の正規化定数  Z_1 を見て「は?」と思ったので全部自分で計算することにしました。

問題

表の出る確率が  \theta\ (0 \lt \theta \lt 1) のコインを  n 回投げたら表が  r 回出た。今回得た事象を  \mathbf{x}^{(n)} と表す時、 p(\theta|\mathbf{x}^{(n)}) を求めよ。

解く

ベイズの規則より  \displaystyle p(\theta|\mathbf{x}^{(n)}) = \frac{P(\mathbf{x}^{(n)}|\theta)}{P(\mathbf{x}^{(n)})} p(\theta) です。

右辺は \[ \begin{align} P(\mathbf{x}^{(n)}|\theta) &= \theta^{r} (1-\theta)^{n-r}, \\ P(\mathbf{x}^{(n)}) &= \int_0^1 P(\mathbf{x}^{(n)}|\theta) p(\theta)\ d\theta \\ &= \int_0^1 \theta^{r} (1-\theta)^{n-r} p(\theta)\ d\theta \end{align} \] であることは今までと同じです。問題は事前分布  p(\theta) の選び方で、続パタ4.5節ではこれをベータ分布  \displaystyle \mathrm{Be}(\alpha, \beta) = \frac{\theta^{\alpha-1}(1-\theta)^{\beta-1}}{\mathrm{B}(\alpha, \beta)} で仮定しています。ということで \[ \begin{align} P(\mathbf{x}^{(n)}) &= \int_0^1 \theta^{r} (1-\theta)^{n-r} \frac{\theta^{\alpha-1}(1-\theta)^{\beta-1}}{\mathrm{B}(\alpha, \beta)} \ d\theta \\ &= \frac{1}{\mathrm{B}(\alpha, \beta)} \int_0^1 \theta^{\alpha+r-1} (1-\theta)^{\beta+n-r-1}\ d\theta\ \\ &= \frac{\mathrm{B}(\alpha+r,\ \beta+n-r)}{\mathrm{B}(\alpha, \beta)} \end{align} \] なので、\[ \begin{align} p(\theta|\mathbf{x}^{(n)}) &= \theta^{r} (1-\theta)^{n-r} \frac{\mathrm{B}(\alpha, \beta)}{\mathrm{B}(\alpha+r,\ \beta+n-r)} \frac{\theta^{\alpha-1}(1-\theta)^{\beta-1}}{\mathrm{B}(\alpha, \beta)} \\ &= \frac{\theta^{\alpha+r-1} (1-\theta)^{\beta+n-r-1}}{\mathrm{B}(\alpha+r,\ \beta+n-r)} \\ &= \mathrm{Be}(\alpha+r,\ \beta+n-r) \end{align} \] ということで事後分布が簡単に導けました。

YOI#5で勝生が出したSP94.36点を逆算してみた

Minami's Boogie良かったですね。あれぐらいの歳の選手がああいう曲で演技するのを見るのはとても楽しいです。

フィギュアスケートの基本的な技術要素については先週までで終わりにして、今週からは(自分の勉強も兼ねて)ルールのさらに細かいところまで突っ込んで見ていきたいと思います。今週はショートプログラムの採点ごっこに挑戦したいと思います。例のごとく間違いに気付かれた方はブログのコメントや Yousack!!! on ICE (@antefest) | Twitter までお知らせください(ブコメは通知が来ないので気付きません😭)まだフィギュアスケートを見始めたばかり〜という方は過去記事からどうぞ。

yousack.hateblo.jp

StSqとかFSSpとか何のこと? という方は フィギュアスケート要素検索 が良くまとまっていてオススメです。

本題

ユーリ!!! on ICE 第5話では勝生勇利が本編中の中四国九州選手権大会のショートプログラムで94.36点という点数を出していました。参考までに以下が現実世界の男子シングルショートプログラムの自己ベストランキングです(出典:http://www.isuresults.com/isujsstat/pbsmsp.htm )。

f:id:Nagoyan:20161105001004p:plain

世界8位に入りますね……。参考までに、この画像で8位の宇野昌磨の15-16四大陸選手権のショートのリザルトを見てみましょう(出典:http://www.isuresults.com/results/season1516/fc2016/fc2016_Men_SP_Scores.pdf)。

f:id:Nagoyan:20161105002213p:plain

ショートで90点台と言うと上のランキングを見ても分かる通りかなり高い点数ではあるので、本編を見たときは「ここでそんな出してくる?」と思ったのですが、4回転1本でそれが微妙な出来になっても他の質の高い技術要素とPCSの高さで割と取り返せるっぽいですね。

ちなみに演技動画がこちら。

www.youtube.com

ということで、試しにどんな感じの採点をすれば勝生のショートが94点ぐらいになるのかを計算してみましょう。ショートプログラムの要件(分からん人:YOI#3で覚えるフィギュアスケート技術要素(スパイラル・スピン基本姿勢・ショート構成) - 矮小 )と合わせて中四国九州選手権大会でのショートの演技構成を確認してみます。

  1. StSq(ステップシークエンス)
  2. CCSp(足換え必須かつフライングスピンとは異なる姿勢のソロスピン)
  3. FSSp(フライングエントリーのソロスピン)
  4. 3A(2Aまたは3A(単独)、ここから後半でジャンプの基礎点は1.1倍)
  5. 4S(ステップなど*1から直ちに単独ジャンプ)
  6. 4T+2Tx(ジャンプコンビネーション)
  7. CCoSp(スピンコンビネーション)

スピンは最後のスピンコンビネーションしか描写がなかったので、第3話で披露された演技を参考に2.と3.を埋めてみました。3.のFSSpはまだ本編では見られていませんが、まず2.がCCSpなので3.をフライングエントリーのソロスピンにしないとショートプログラムのスピン要素の要件に合いません。さらに3.で選べるスピンは2.とは基本姿勢が異ならなければならないのでFSSpとFUSpのどちらかで、まあシニアだし勝生はスピンとステップが得意な設定があるし……ということでFUSpより基礎点が高くて実際に実施されることも多い*2FSSpにしておきました(今後の放送で確定するかもしれません)。

基礎点を計算する前に、ステップシークエンスとスピンのレベルを確定させなければいけません。面倒なのでとりあえず超適当に決めます(ので、「とりあえず」みたいな枕詞を置いているところについてはあまり信用しないでください。あくまでもお遊びということで……)。

まずステップシークエンス。ステップシークエンスでレベル4を取るためには定められた4つの要件を全て満たさないといけないので、その中の一つである「異なる足で難しいターン・ステップの3連続で異なる組み合わせで1回ずつ行う」*3という要件も要求されます。本編の演技を見てもそれをこなそうとしてる感じはする(しさすがに宮本賢二先生もレベル4が取れるように作っているはず、たぶん、信じてる)のでとりあえず全てのレベル要件を満たしたということにしてStSq4にしておきます。

次にスピン。スピンのレベル要件は(レイバックスピンを除いて)11個もある上にそのうち9個は1つの演技で2度以上繰り返し使えないのでカウントするのが超大変です。今回は7.のCCoSpだけ映されたのでこれだけレベルを検討してみます。他のスピンについては面倒なのでとりあえず全部レベル4にしておきます(よいこのみんなは真似せずにちゃんとレベル要件を確認してね!)

スピン・ステップのレベル要件についてはScale of Valueの後ろの方に載っています。各要素の点数表もこれの前半に載っているので適宜参照してください(Related DocumentsのISU Communication 2000)。

www.isu.org

難しい姿勢の定義と参考写真はテクニカルパネルハンドブックに載っています (Technical Panel Handbook Single Skating)。

Single & Pair Skating - ISU

日本語版はこちら(国内規程→ISUハンドブック→シングル→テクニカルパネル→日本語)。

|Japan Skating Federation Official Results & Data Site|

それでは勝生のCCoSpを参考に、スピンのレベルを上げる要素を確認していきましょう。最初の姿勢は左足でキャメル。

f:id:Nagoyan:20161105010645p:plain

ホップを挟んで……

f:id:Nagoyan:20161105010751p:plain

キャメル・シット・アップライトのどれでもない非基本姿勢。非基本姿勢は1つの種類をこなすごとにレベルが1つ上がります(ただし非基本姿勢や、基本姿勢の「難しい姿勢」は、レベルを上げる要素としては1つの姿勢につき1回までしか演技内では使えません)。これでレベル1を獲得しました。また、スケーティングレッグは1個前の画像と同じ左足のままなので、“Jump within a spin without changing foot”(スピン中に足換えを伴わないジャンプ)を満たしました。これでレベル2。

f:id:Nagoyan:20161105011614p:plain

足換えしてシットスピン。ここは普通の姿勢です。

f:id:Nagoyan:20161105011827p:plain

姿勢を少し変化して左足を手で掴みます。左足が後ろに出ているのでシット・ビハインドの「難しい姿勢」です。これでレベル3。

f:id:Nagoyan:20161105014103p:plain

最後にアップライトスピン。氷上に両足を乗せて回るクロスフット・スピンはアップライトスピンの「難しい姿勢」(アップライト・ストレート)として認められます。これでCCoSp4になりました。めでたしめでたし。

f:id:Nagoyan:20161105014116p:plain

ジャンプについてはGOEを計算してみましょう。3つやってるとまた文量が大変なことになってしまうので、とりあえず上手く行かなかった4Sだけ。4Sはそもそもコマ送りして確認すると回転不足な感じがしました(内心「回りきってる! とは言ってましたが……」)。これが離氷点。

f:id:Nagoyan:20161105014219p:plain

そして着氷点。

f:id:Nagoyan:20161105014609p:plain

YOIのジャンプシーンは、アップで映される場合は基本的に離氷時が右向き(上手向き)になるようにカットが作られている感じがするので、カメラが同じ向きのまま選手を映しているとすれば右向きで着氷しなければいけません。2枚目を見ると回転が1.5/4足りないような感じがするので回転不足(不足分が1/4以上1/2未満)ですかね。僕の解釈が違うかもしれませんがとりあえずそういうことにしておきます。回転不足の場合は点数表のV列の点数が使われるので、基礎点がだいたい0.7倍ぐらいになります。さらに回転不足の場合はGOEの減点要素の “Under-rotated (sign <): -1 to -2” に該当します。

f:id:Nagoyan:20161105024811p:plain

またこの4Sは着氷した時に片手をついてしまいました。これはGOE減点要素の “Touch down with one hand or free foot: -1” に該当します。 GOE加点要素については “clear recognizable steps/free skating movements immediately preceding element” にギリギリ該当しそう。プラスのGOEについては定められた要件を2個満たすたびに1点上がっていくのでここでの加点は付きません。合わせると-2点から-3点になりますが、ここではとりあえず-2にしておきます。

他のジャンプについてはなんとか回転が足りてそうだったのでそのままにしておきます。

ここまで考えた技術要素の基礎点を全部足してみます。4S以外のGOEはとりあえず全部0にして一旦基礎点だけ計算してみます。

  1. StSq4: 3.9
  2. CCSp4: 3.2
  3. FSSp4: 3.0
  4. 3Ax: 8.5 x 1.1(演技後半ボーナス)= 9.35
  5. 4S<x: 8.1(“<”なのでV列の点数)x 1.1 - 2.4 (GOE-2)= 6.51
  6. 4T+2Tx: (10.3 + 1.3) x 1.1 = 12.76
  7. CCoSp4: 3.5

全部足すと42.22点になりました。合計は94.36点で、考えうる最大の演技構成点は 94.36 - 42.22 = 52.14点。男子シングルの演技構成点は50点が満点なので、……あれ? さすがに4S以外のGOEを考慮しなかったのは低く見積もりすぎたようです。ということで、超適当ではありますが、イーグルから入って着氷後の流れも良かった3Aと得意なStSq4をGOE+3に、それ以外の要素はGOE+2にしてみます。

  1. StSq4: 3.9 + 2.1 (GOE+3) = 6.0
  2. CCSp4: 3.2 + 1.0 (GOE+2) = 4.2
  3. FSSp4: 3.0 + 1.0 (GOE+2) = 4.0
  4. 3Ax: 8.5 x 1.1(演技後半ボーナス)+ 3.0 (GOE+3) = 12.35
  5. 4S<x: 8.1(“<”なのでV列の点数)x 1.1 - 2.4 (GOE-2)= 6.51
  6. 4T+2Tx: (10.3 + 1.3) x 1.1 + 2.0 (GOE+2)*4 = 14.76
  7. CCoSp4: 3.5 + 1.0 (GOE+2) = 4.5

全部足すと52.32点になりました。94.36 - 52.32 = 42.04点で、これは上で挙げた宇野の四大陸選手権ショートのPCSより少し低いぐらいの点数です。GOEをかなり適当にモリモリ加点しましたが、4回転が2本入ってるのもあるし、もうちょいGOEを下げてPCSを上げれば意外とかなりそれっぽい点数になるかもしれません。

ところで答え合わせできる資料はいつ公開されるのでしょうか……。グッズがたくさん出ていることはアニメオタクとしては嬉しいですがスケオタ的にはやはり詳しいリザルトが見たくなってしまうのがサガですね。

更新履歴

2016-11-06 00:40頃 不正確な記述をしていたので「自己ベストランキング」という表現で明確化しました。まあ(国内大会は割と点数が出る傾向があるとはいえ4S降りられたら普通にこれぐらい出そうだし)トップ10に入ってきそうというのは確かですが……。

*1:ジャンプ前のステップ全然分かんね〜〜〜と思ってましたがよく見るとインサイドイーグル→モホーク→4Sということで要件を満たしてそう

*2:カナダのケヴィン・レイノルズはフリーでではありますがスケート・カナダでFUSpしてました

*3:言葉で伝えるのが非常に難しいですが、例えば上で出した宇野の演技動画の2:30-2:32あたりで1, 2, 3って感じで一定のリズムに乗ってターン(ロッカー?→カウンター?→ツイズル)してるやつがこれの1つです

*4:ジャンプコンビネーションのGOE加減点については、その係数が一番大きいジャンプのもののみを考慮します。この場合は4TのGOE係数だけを見る

YOI#4解説 採点方法とプロトコルの読み方・フリープログラムの構成とザヤ回避検討

YOI#4を見た皆さん、こんばんは。生きてますか? 僕は終盤の勝生とプリセツキーのモノローグを思い出すたびに鬱になっています。フィギュアスケートのルール・技術解説を4週間に渡って投稿し続けてきましたが、基本的な部分については今回の投稿でほぼ終わりにできるかと思っています。ステップをまだ取り上げられていませんが、まあそれについては勝生の華麗なステップが本編で披露されたら僕が頑張って猛勉強*1するということで何卒……。

採点方法とプロトコル

f:id:Nagoyan:20161028235610p:plain

「4回転1種類でも、プログラムコンポーネンツ満点出せばいいじゃないか」

第1話の時の記事でも軽く解説しましたが、本編で出てきたので一応ここでも書いておきます。2002年のソルトレイクシティオリンピックでとある事件*2が起こってからそれまでの6.0点満点方式の採点が見直され、2004-2005シーズンから現行のISUジャッジングシステムが導入されました。このシステムでは、演技時間中に実施された技術要素の要素ごとの点数(に減点やGOEを加味したもの)を合計した技術点 (Technical Elements Score; TES) と、5つの観点から採点された演技構成点 (Program Components Score; PCS) の合計から減点 (Deduction)(だいたいは転倒、演技時間超過・不足、演技中断によるもの)を引いた点数で順位が決められます。そしてその採点が全て詰まっているのが、競技会の各種目終了後に即座に公開されることになっている「プロトコル*3です。先週行われたスケート・アメリカでの実例を見てみましょう。

f:id:Nagoyan:20161028234048p:plain

画像は ISU GP 2016 Progressive Skate America より、2016年グランプリシリーズスケート・アメリカの宇野昌磨のフリーのプロトコルです。上の枠には選手のプロフィールと各セグメントの合計点・減点が、下の枠には技術点と演技構成点の詳細が記載されています。技術点は左から要素の記号、要素のインフォメーション記号(回転不足やエッジエラーなど)、インフォメーション記号が加味された後の基礎点、計算後のGOE、各ジャッジのGOE、計算後の要素の合計点となっています。その下には演技構成点の採点が記載されています。演技構成点にはFactorという項目がありますが、これはショートとフリーの要素数の差による技術点の差や、男女間における技術点の差(男子よりも女子の方が実施される技術要素の平均的な難易度が(主にジャンプにおいて)低めとなってしまう)を考慮して演技構成点に掛けられる倍率のことです。具体的には、男女シングルだと女子ショートがx0.8、女子フリーがx1.6、男子ショートがx1.0、男子フリーがx2.0となっています。男女間が0.8倍、ショートとフリーが2.0倍という関係になっていますね。技術要素の略記号を覚えるとプロトコルが読めるようになるので、適当な動画サイトで演技を見ていて採点が気になったら「isuresults 2016 skate america」みたいな感じでググってPDFを開いてプロトコルを見る……という技術沼に沈むことができます😇

ちなみに現行の採点方式は2003年のネーベルホルン杯とグランプリシリーズで先行して試行されており、こちらがその最古のプロトコル(2003年ネーベルホルン杯)です。

35th Nebelhorn Trophy

……が、なぜかDetailed ResultのPDFだけレスポンスが返ってこないのでなんとなく2003年スケートアメリカの男子フリーのリザルトを開いてみたら本田武史が1位でした。下の方にはステファン・リンデマンが。時代。

http://www.isuresults.com/results/sa2003/sa03_men_fp_scores.pdf

この頃まだ全くフィギュアスケートを見ていなかったので適当言いそうで怖いですが。5番目の要素は4T+COMBOとなっていますが、この時はまだ「3回転以上の同種類のソロジャンプの繰り返し」は+SEQ記号が無く+COMBOが付いてジャンプコンビネーション扱いになったからのはずです。このせいで回数制限のあるジャンプコンビネーションを1回分消費してしまうというルールでした。SeSqはサーペンタインステップシークエンス、SlSqはストレートラインステップシークエンスで、前者はリンクの短辺から短辺まで2長辺の間を蛇行するように進み、後者は短辺から短辺まで直線の軌道で進むステップシークエンスでした。残りの中央いっぱいに円を描く軌道のサーキュラーステップシークエンス (CiSq) も含めて全て同じ基礎点ですが、男子はFSではこの3つのうち2つを選んで実施しないといけないため、一番軌道が長くなるSeSqを入れる選手はほとんどいませんでした(らしい)。しかしステップもスピンもレベルを考慮した演技がまだ無いためか軒並みレベル1から2になっていますね。

冒頭に出した画像でニキフォロフは「プログラムコンポーネンツ満点出せばいいじゃないか」と簡単そうに言っていますが、過去の6.0点満点システムであれば芸術点で全員6.0点の満点が出された選手がいます。

www.youtube.com

ロシアのエフゲニー・プルシェンコ。2003-2004シーズンのフリープログラム、『ニジンスキーに捧ぐ』です。ニジンスキーは19世紀のロシアのバレエダンサーであるヴァーツラフ・ニジンスキーのことで、演技中にはこのニジンスキーがバレエで演じた演目で披露されたポーズがいくつか取り入れられています。6.0点採点最後のシーズンのプログラムですが、これが今の方式で採点されていたらどうなっていたのかが気になりますね……と思っていたら2010年のジャパン・オープンで再演されていたようです。

www.youtube.com

プロトコルはこちら。 http://www.jsfresults.com/InterNational/2010-2011/jo/data0105.pdf あのプルシェンコがフリップでエッジエラーを取られるとは……。

フリープログラムの構成

第4話ではタイトル通り勝生のフリープログラムが完成し、終盤ではその断片が垣間見えました。先週はショートプログラムの要件を確認したので、今週はフリースケーティングの要件を確認しましょう。男子シングルのフリースケーティングの要件は以下の通りです:

f:id:Nagoyan:20161029003459p:plain

ちなみにフリースケーティングの要件は男女・クラス間であまり差が無く、演技時間を4分30秒から4分にすれば男子ジュニアになります(この30秒がシニア上がりの大きな壁……)。また、演技時間を4分にしてジャンプの要素を8本から7本にすれば女子シニアになります(ジャンプコンビネーションの3本は変わりません)。

本編で公開された勝生の予定構成を見て照らし合わせてみましょう。

f:id:Nagoyan:20161029003316p:plain

  1. 4T+2T(ジャンプ1, ジャンプコンボ1)
  2. FSSp(フライングスピン)
  3. 4S(ジャンプ2)
  4. CCSp(単一姿勢のスピン)
  5. 3Lo(ジャンプ3)
  6. ChSq(コレオシークエンス)
  7. 3A(ジャンプ4、ここから後半?)
  8. 3F(ジャンプ5)
  9. 3A+1Lo+3S(ジャンプ6, ジャンプコンボ2, 3連続ジャンプ, 3A2回目(コンビネーションなのでOK))
  10. 3Lz+3T(ジャンプ7, ジャンプコンボ3)
  11. 4T(ジャンプ8, 4T2回目(1. がコンビネーションなのでOK))
  12. CCoSp(スピンコンビネーション)

そうです。ステップシークエンス (StSq) が足りません……。円盤で修正が入るのか、そもそも本当に予定していないのか……勝生の一番の見せ所のはずですがどうなるんでしょう。 円盤で修正が入りました。よかった。

あまり考えたくないですが、ジャンプの要素で失敗した時のことを考えてみましょう。ジャンプの要素は跳んでしまえば転倒しても何かしらのジャンプ要素としてコールされるので、どの回転数で降りてくるかが割と重要です。特にジャンプコンビネーションの1本目で転倒してソロジャンプになってしまったり、4回転ジャンプがパンクして回転数が減ると他のジャンプと衝突してno valueになるジャンプが発生する可能性があります(いわゆるザヤックルール)。

ジャンプの回数に関するルールをここでもう一度整理しておきましょう。

  • 2回転以上のジャンプについては、同回転数かつ同種類のジャンプで3回目以降の実施はno value
  • 3回転以上のジャンプについては、フリースケーティング中で2回使っていいジャンプは2種類まで(回転数または跳び方のどちらかが違えば別種類とみなす)
  • フリースケーティング中で2回使用される3回転以上のジャンプについては、少なくとも片方がジャンプコンビネーションに含まれていなければならない。これに違反し両方がソロジャンプとなると、2回目に実施したソロジャンプには+REP記号が付き、基礎点が70%となる。

地味に難しいパズルを解かなければいけませんね……。フィギュアスケートのルールの中でもだいぶ複雑なものですが、実際の演技を見ながらゆっくり慣れていきましょう。

勝生の構成で実践してみます。まずジャンプコンビネーションで転倒してしまう場合。

1. 4T+2T→4T

冒頭の4Tで転倒すると4Tのソロジャンプになってしまうため、最後の11. 4Tを4T+2Tに変更しなければいけません。最後の4回転でコンビネーションは本当にしんどいですが、これを忘れてそのまま4Tで跳んでしまうと、4Tが両方ソロジャンプで跳ばれたことになるため、「3回転以上のジャンプで2回繰り返されるものは、少なくとも1回はジャンプコンビネーションに含まれていなければいけない」という要件を満たしません。この場合、2回目に実施した4Tには+REP記号が付き、基礎点が70%となります。この要素は演技後半に実施されるので、基礎点を計算すると10.3(4T基礎点)x 1.1(演技後半ボーナス)x 0.7(+REPによる減点)= 7.93 点となります。転倒するとGOEはほぼ-3になりますが、4回転ジャンプのGOE-3は全て-4.0点に対応するので、最終的には3.93点となります。これは3Tより少し少ないぐらいの点数です。(2016-11-03 1:40頃削除 転倒するとは限らないので参考程度に……)

最後のジャンプで4T+2Tを跳ぶことがスタミナ的に無理であれば、3T+2Tや3Lzに変更してしまうという手もあります。この場合は3回転以上で飛んだジャンプが3Aと3T/3Lzとなり、3Tも両方(3Lzは10.が)ジャンプコンビネーションに含まれているので全てのジャンプが点数を獲得することができます。こちらの方が現実的ですね(ニキフォロフの言う「驚き」は観客には与えられなそうですが……)。

9. 3A+1Lo+3S→3A

7.の3Aが単独なので、9.の3Aで転倒してしまうと9.がソロジャンプになることが確定します。この場合は9.が3Ax+REPとなり、8.5(3A基礎点)x 1.1(演技後半ボーナス)x 0.7(+REPによる減点)-3.0(GOEが-3と仮定) = 3.55 点となります。これは2Aより少し多いくらいの点数ですね。3A+1Lo+3Sxならば14.74点なので11点以上のロスとなります。これは順位が大きく変わってきそうですね*4

「コンビネーションジャンプの2つ目以降はスケーティングレッグが右足になるからTとLoしか付けられないんじゃないの?」と思ったあなたは正しいです。この数シーズン前から流行りの1Lo(実際にはハーフループ)を挟んだジャンプコンビネーションについても、本編で披露された時に(技術規則的な観点から)解説したいと思っています(今週の分でやろうとしたけど思った以上に分量が増えてしまったので今回はやめておきます……)。

3Lz+3Tの3Lzで転倒しても、3Lzを他で使っている場所は無いのでジャンプ数の衝突などの心配はありません(もちろん点数は大きく減りますが)。

続いて、4回転ジャンプがパンクして回転数が減ってしまった場合を考えましょう。

1. 4T+2T→3T+2T

この場合は、3回転以上で2回使われるジャンプが3Tと3Aの2つになります。3Tは両方コンビネーションに含まれているのでno valueになるジャンプはありません。これは1.の4T+2Tが成功した後に11.の4Tが3Tにパンクしてしまっても同じです(3T+2Tがコンビネーションなので)。ただし4Tと3Tの点数差は6.0点なのでロスは大きいです。

1. 4T+2T→3T+2T, 11. 4T→3T

4Tが両方パンクして3Tになってしまうと、3回転以上で2回跳ぶジャンプは3Tと3Aで上の場合と同じですが、11.の3Tが3回目の実施となるのでno valueになります。4回回って転倒するより3回回って降りた方が点数が減るというのが現行ルールの恐ろしいところですね……。ちなみにno valueを回避するためには、1.の4Tが3Tになってしまった時点で11.の4Tを2Tにしたり、10.の3Lz+3Tを3Lz+2Tにして11.を3Sに変更することが考えられます。

1. 4T+2T→2T+2T, 11. 4T→2T

この場合は1.で2Tを2回跳んでしまったので、11.の4Tもパンクして2Tになってしまうと、2Tの3回目の実施となるのでno valueになります。安全策で11.を3T, 3S, 3Lzに変更して確実に決めれば全てのジャンプが点数を獲得できます。

3. 4S→3S

これ以外のジャンプを全て予定通りに跳んでしまうと、3回転以上で2回繰り返したジャンプが4T, 3A, 3Sの3種類になってしまいます。ジャンプを実施する順番を考えると、「3回転以上で2回繰り返していいジャンプは2種類まで」という要件を先に満たす要素は3Aと3Sになります。これで割りを食うのが最後の11.のジャンプで、これが4Tのままだと1.と、3回転のジャンプにしてもそれまでのいずれかのジャンプと衝突してしまい、3回転以上繰り返すジャンプの3種類目になるのでno valueになってしまいます。これを回避するには3A+1Lo+3Sの3Sをやめればいいので、3A+2Lo+2Lo, 3A+1Lo+2S, 3A+1Lo+2Fなどに変更することが考えられます*5

以上では「この種類が失敗したら」と1種類のジャンプに注目して考えてきましたが、実際には複数種類のジャンプを失敗してしまう可能性があるわけで、もっと複雑なパターンを演技中に考えなければいけません。リンク上のスケーターは淡々と要素をこなしているように見えますが、脳内ではすごく大変なことを考えていることがあるのです(見てきたような言い方ですが……)。

変更履歴

2017-03-29 00:00:00 コメントで指摘をいただいた最古のプロトコルの情報を変更しました。合わせて勝生の予定構成メモも円盤で修正が入っていたため本文を修正しました。

*1:どれだけステップに疎いかというと最近ようやく「難しいターンとステップ」の区別が付いてジャンプ前のステップならギリ分かるか分からないかになってきたレベルです……。各ターンの軌道についてはこのサイトが分かりやすかったです

pandamaster.blog114.fc2.com

*2:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%AE%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%AB

*3:というのはスケオタ間の俗称で、「プロトコル」はあくまである競技会についての情報すべてを包括的に指す用語であり、点数表については上記URLの中ではDetailed Scoresなどと書かれている

*4:この前のスケートアメリカでは宇野昌磨がまさにこのミス(前掲した宇野のプロトコルの10.の要素)をしましたが優勝しました……(宇野の場合は1本目の3Aがコンビネーションなのでここでは+REPは付いていませんが)

*5:1Lo後にフリップはほぼ見ませんが、宇野昌磨は3A+1Lo+3Fにして基礎点を上げたりしています

YOI#3で覚えるフィギュアスケート技術要素(スパイラル・スピン基本姿勢・ショート構成)

こんにちは。試合に勝ってもいないのにカツ丼を食べました。今回は第3話にこっそり仕込まれていたフィギュアスケートの技術系のネタと、試合を見るときに抑えておくべきショートプログラムの構成についてを2人の演技に合わせて確認していきます。

スパイラル

f:id:Nagoyan:20161021214848p:plain

温泉 on ICEのポスター。ユーリ、ユリオと名前が書かれた隣で2人が脚を上げた姿勢を取っています。このように、フリーレッグ(スケーティングしていない方の脚)を腰より高く上げて一定の姿勢を保ったまま滑ることをスパイラルと言います。右のユーリのように上体を地面に平行に近くなるまで下げて、片脚を上げた状態でスパイラルを「アラベスクスパイラル」と言います。アラベスクという名前の姿勢はもともとバレエに存在しているもので、これに近い状態で滑っていることから名付けられました(たぶん)。一方左のユリオのようにフリーレッグを頭上で手づかみしたまま滑ることを「ビールマンスパイラル」と言います。ちなみにこの姿勢のままスピンすると「ビールマンスピン」になります。「ビールマン」はスイス出身の女子フィギュアスケート選手から来ています。

デニス・ビールマン - Wikipedia

ちなみにフリーレッグをつかんだスパイラルには単なる「キャッチフットスパイラル」もありますが、どう違うのか分からなかったので競技規則を確認してみましょう。スピンの章に “Biellmann Position” という項目があります。

Biellmann position is a difficult variation of an upright position (UB) when the skater’s free leg is pulled from behind to a position higher than and towards the top of the head, close to the spinning axis of the skater. Like other categories of difficult spin variations, Biellmann position counts once per program (Short or Free) – first time it’s attempted.

In free skating a spin that starts with layback position (at least 2 revs) and continues with Upright Biellmann variation is still called a layback spin.

フリーレッグを頭上近く・回転軸付近で掴むという2つの条件を満たすことが条件っぽい。

スパイラルではないですがせっかくビールマンの話が出たので。「私はもっと脚が高く上がるから」と言ってビールマンポジションをさらに発展させた「キャンドルスピン」を競技会で披露したのがロシアのユリア・リプニツカヤ

www.youtube.com

動画は2014年冬季オリンピックソチ大会フリースケーティングの『シンドラーのリスト』。演技後半、ジャンプを全て終えた後の2本目のスピンの最後の姿勢がキャンドルスピン。頭が完全に脚と腕の間に挟まれています。赤い衣装が炎に見えてまさにキャンドルという感じがして良いですね。ちなみにキャンドルスピンという名前はリプニツカヤ自身が命名しました。かわいい。

ちなみに昔の競技規則ではスパイラル自体が1つの技術要素となっており、スパイラルシークエンスとかコレオグラフィックスパイラルとかいう名前でしたが、2012-2013シーズンからはコレオグラフィックシークエンスに吸収合併されました。

スピンの基本3姿勢

f:id:Nagoyan:20161021225336p:plain

上の項目のシーン直後の「勇利復活、バンザーイ!!」のシーン。このシーンにはスピンの基本姿勢が3つのうち2つ含まれています。手前でしゃがんで片脚を手で支えて回っているのがシットスピン(SSp)。それ以外の3人はアップライトスピン(USp)です。シットスピンはしゃがんでいるので分かりやすいですが、アップライトスピンの定義が「軸足が直立しているか少し曲がっていてキャメルスピンではないもの」なのでキャメルスピンを先に説明しなければいけません。キャメルスピン(CSp)は、上体が氷面に対して平行に近い状態になっており、フリーレッグが後方に伸びている姿勢を言います。 “free leg backwards with the knee higher than the hip level” なので、定義としてはフリーレッグの膝がお尻より高い位置になければいけません。そのためキャメルスピンは基本的には上体・フリーレッグが氷面に平行になって、全体としてTの字になっていることが多いです。

f:id:Nagoyan:20161021232233p:plain

プリセツキーが温泉 on ICEの演技で披露した途中のスピンにもキャメルスピンが。この姿勢はスパイラルの項目で上げたビールマンスパイラルの姿勢に近いですが、フリーレッグは回転軸近くまで来ているものの上体が氷面に対して平行に近い状態になっているので、キャメルスピンの「難しい変化 (difficult variation)」の1つとして数えられます。ちなみに前の段落で上げたキャメルスピンの定義には続きがあって、“however Layback, Biellmann and similar variations are still considered as upright spins” と書いてあるので、ビールマンスピンや、上体を大きく後ろにそらしてスピンする「レイバックスピン」はキャメルスピンではなくアップライトスピンの難しい変化として考慮されます。ただし、レイバックスピンを単独で行うと要素記号として LSp が与えられ、全ての単独スピンの中で最も基礎点が高くなります。ややこしいね。スピンの項目は競技規則でも一番記述が多くて読むのが大変です(別に読まなくてもいいですが)。

まあ最初はしゃがんでたらシットスピン、脚を後ろに伸ばして上体を前に倒していたらキャメルスピン、それ以外はアップライトスピンということが分かればだいたい大丈夫です。1回のスピンでこの3つの基本姿勢を全てこなすとスピンコンビネーションになります。

ショートプログラムの演技構成

ジャンプの見分け方が分からない人は ヴィクトルの演技を見てジャンプを見分けられるようになろう - 矮小 を上から、英語の記号が全然分からん人は同記事の下の方を読んでからどうぞ。

さて、今日の本番はここからです。せっかく本編でショートプログラムでが披露されたので、2人の演技を見ながらショートプログラムの要件を確認していきましょう。かなり長いので難しいな〜と思ったら適当に読み流してください。そして現実世界のグランプリシリーズを見たらまた戻ってきてください。ちょっとだけ分かるようになってるかも。

ショートプログラムでは以下の要素を実施しなければいけません:

  • ジャンプ
    • 2Aまたは3A(単独)1.
    • ステップ、またはそれに準ずるフリースケーティング動作からの3回転または4回転ジャンプ(単独)2.
    • 2-3, 3-3, 4-2, 4-3 の組み合わせの回転数となるジャンプコンビネーション 3.
  • スピン
    • フライングスピン8回転以上(着氷姿勢が1姿勢のスピンと異なる)4.
    • CSSp または CCSp 各足6回転以上ずつ 5.
    • CCoSp 各足6回転以上ずつ 6.
  • ステップシークエンス
    • StSq 7.

アクセルジャンプは1.でしか跳べません。また2.の単独ジャンプは3.で使ったものとは別のものにしなければいけません。3.のジャンプコンビネーションの組み合わせには同じジャンプを2つ含めても構いませんが、単独ジャンプで4回転ジャンプを跳んでジャンプコンビネーションにも4回転を入れる場合は単独で行った4回転とは別の種類を入れなければいけません(4T 4T-3Tのような場合は2つ目の4Tのみがno value(3Tは加点される*1))。

スピンはかなり制限が厳しいです。フライングスピン以外ではフライングエントリーしてはいけないので、男子シングルのショートプログラムのスピンの組み合わせは FCSp CSSp CCoSp または FSSp CCSp CCoSp のどちらかとなります(4.でアップライトスピンをしてもいいですが、基礎点が最も低いのでシニアのショートプログラムで見ることはほぼありません)。

ステップシークエンスは StSq のみです。コレオグラフィックシークエンス ChSq はフリースケーティングのみで行われます。

完全に覚えるのは少し大変ですが、とりあえず「ジャンプ3、スピン3、ステップ1。ジャンプコンボとスピンコンボは1個ずつ、単独アクセルを必ず跳ばなければいけない」という感じでふわっと覚えておけば何とかなります(というかショートで要素違反が起こることはほぼ無いので最悪無理に覚えなくてもいい)。

それでは実際に今回披露されたプリセツキーと勝生の演技構成を見ていきましょう。

1人目のプリセツキーの演技は、実施されたものの順に見ていくと 3A(1.) FSSp(4.) (C?)CSp(足換すれば5.) 4S+3T(3.) 4T(スリーターンから単独ジャンプ、2.) StSq(7.) CCoSp(6.) となります。またここでは詳しくは検証しませんが4Sがダウングレード(アクセル以外の前向き踏切はダウングレード)、3Tが回転不足気味(回転が1/4以上足りない)な感じだったので、もしそうだと仮定すれば最終的なプロトコルは 3A FSSp (C)CSp(*?) 4S<<+3T< 4Tx StSq CCoSp となります。

せっかく上の項目でスピンの3つの基本姿勢を確認したので、プリセツキーの演技でスピンの姿勢の推移を詳しく見ていきましょう。最初のFSSpはフライングエントリー。

f:id:Nagoyan:20161022004140p:plain

これでFが付くことが確定。

f:id:Nagoyan:20161022004222p:plain

左足でシットスピン。FSSpの完成です。

f:id:Nagoyan:20161022004305p:plain

間に滝の回想を挟んで次はキャメルスピン(上体が氷面に対して平行に近い・足が後ろに伸びて膝がお尻より高い!)。足換えの描写が無いですが、どこかで足換えをしていないと5.の要件を満たしません。このキャメルスピンは肩のラインが表面に対して垂直になっているので、キャメルスピンの「難しい変化」のうちCamel Sidewaysになっていることが分かります(「難しい変化」の姿勢についてはISU Technical Panel Handbookのスピンの章の最後のページに写真がたくさん載ってるので見てみてください)。

2つ目のCCoSp。最初は左足でシットスピン

f:id:Nagoyan:20161022005105p:plain

これで現時点ではSSpです。

f:id:Nagoyan:20161022005141p:plain

次に右足に足換えしてキャメルスピン。フライングエントリーしておらず、足換えのCが付くのでこれでCCoSpが確定しました。

f:id:Nagoyan:20161022005546p:plain

キャメルの基本姿勢から足を掴んで難しい変化に持っていきます。肩のラインが氷面に対して平行なのでCamel Forwardかな?

f:id:Nagoyan:20161022005909p:plain

最後にもう一度シットスピン。今回はここで演技が終わりましたが、スピンコンビネーションの要件を満たすためにはこの後さらにアップライトスピンをこなさなければいけません。逆に言えば、最後にアップライトスピンを追加できれば「足換え後に3つの基本姿勢を全てこなす」を満たせるのでスピンのレベルを1つ上げることができます(スピン・ステップのレベルの要件はScale of Valueの点数表が終わった次のページに書いてあります)。

次に勝生の演技構成は StSq(7.) (C?)CSp(足換えすれば5.) (回想中にFSSp? 4.) 3A(1.) 4S(モホークから単独ジャンプ、2.) 4T+3T(3.) CCoSp(6.)。4Sは回転不足っぽかったので、全て並べると StSq (C?)CSp(*?) (FSSp?) 3Ax 4S<x 4T+3Tx CCoSp となります。何とジャンプを全て後半に持ってきた上にステップシークエンスから始まるという驚きの筋肉プログラム*2……と思いきや、似たような構成をメドベデワがやってましたね。

www.youtube.com

動画は2016年世界選手権ショートプログラム、映画『白夜の調べ』より。演技構成はなんとCCoSp3p4 StSq4 3Fx 2Ax 3Lo+3Tx FCSp4 LSSp4と、こちらも全てのジャンプを後半に持ってきています。この大会の女子シングルショートプログラムで全てのジャンプを後半に持ってきていたのはメドベデワのみでした。

勝生のスピンの構成も見てみましょう。最初はCSp。フライングせずにキャメルから入ります。

f:id:Nagoyan:20161022014005p:plain

ミナコ先生の回想が終わったら勝生のスピンも終わってました。フライングエントリーしないキャメルのみのスピンであれば、足換えをしないと5.の条件に当てはまらずno valueになってしまいます。

続いて最後のCCoSp。これは(これより前にCoSpを行なっていなければ)6.に当てはまるので評価されます。

f:id:Nagoyan:20161022014501p:plain

最初は左足でキャメル。この時点ではCSp。

f:id:Nagoyan:20161022014613p:plain

(たぶん)非基本姿勢*3(基本姿勢のどれでもない姿勢)を経て……

f:id:Nagoyan:20161022015136p:plain

さりげなく足換えしてシットスピン。これでCCoSpが確定。

f:id:Nagoyan:20161022015358p:plain

最後にアップライトスピン。これで3つの基本姿勢をこなせました。この図のように両足に均等に体重を乗せて2足で回転することをクロスフットスピンと言って、この姿勢が成功したと認定されるとアップライトスピンの「難しい変化」のうちUpright Straightに該当し、スピンのレベルを1個上げることができます。

自分で記事を書いてみて分かりましたがスピンの姿勢って変化すると(特にキャメルとアップライトが)かなり曖昧になりますね……。スピンについてはあまり詳しくないのでもし間違っているところがあればコメントにてお知らせください(勉強中の人は他のサイトや動画も当たりましょう!!)。次回は特に技術的な要素が本編中に無ければ第1話のヴィクトルの昨シーズングランプリファイナルのフリースケーティングの演技構成を詳しく見ていこうかなと思っているのでよろしくお願いします。

改定履歴

2016-10-22 03:20:00頃 プリセツキーのスピンでFCCoSpとしていたのを勝生のモノローグでFSSpとCCSpに分割しました。また勝生の構成で回想中に実施していた可能性があるとして、ショートの構成として足りなかったFSSpを捕捉しました。アニメ上の演出の問題もあるので考えることが増えて大変だ……。えばらさんありがとうございました。

2016-10-23 22:45:00頃 ショートプログラムのジャンプ構成で一部日本語がおかしかったので訂正しました。夜中に文章を書くのはやめましょう。

2016-10-23 22:55:00頃 アニメの演出を意識してスピンをいい感じに解釈したら普通にショートプログラムの構成になったので文章を一部変更しました。プリセツキーのCCoSpもカウントされるので * 記号を外しました。拡散されてから内容を変更しまくるのやめろ。

*1:昨シーズンまではこの場合3Tも巻き添えを食ってno valueになっていました

*2:普通はジャンプが一番体力を使うので最初に持ってきたいが、演技後半に実施すれば基礎点が1.1倍になるのでそうもいかない

*3:パッと見アップライトっぽいが基本姿勢の繋ぎなのもあって非基本姿勢っぽい? 識者の意見を求めます

ユーリ!!! on ICE 第2話 技術寄りスケオタ的注目ポイント

第2話は割とコメディ寄りでした……が、それでもフィギュアスケート的な注目ポイントがいくつかあったので自分の備忘録代わりに記録しておきます。Twitterでも他のスケオタの皆さんが思い思いにツイートしていたのを見ましたが、とりあえずフィギュアスケートの技術面についての要素だけ記載していきます。3点しかないのにいつの間にか文量がめっちゃ増えてしまいましたが、解説用の動画は今回もたくさん置いているのでそちらを見ながらゆっくり読んでいってください。

イーグルから2A

(2Aって何? と思った方は前回の記事をご覧ください ヴィクトルの演技を見てジャンプを見分けられるようになろう - 矮小

f:id:Nagoyan:20161014214349p:plain

プリセツキーがアイスキャッセルはせつに到着してリンクインした後のニキフォロフの練習シーン。上の画像のように両足を180度広げて滑る形を「(スプレッド)イーグル」と言い、現在のフィギュアスケートで言うところのムーブズ・イン・ザ・フィールド(一定の姿勢を保ったまま滑る動作)の一種となっています。単なる要素*1間のつなぎやコレオシークエンス、そして上のシーンのようなジャンプ前の予備動作にも用いられます。

少し余談となりますが、フィギュアスケートの技術要素にはそれぞれに対して-3から3までのGOE (Grade of Execution)という出来栄え点が考慮され、要素ごとに設定された基礎点に加えてGOEによる点が加点・減点されます。GOEの点数をそのまま加えるのではなく、要素ごとにGOE1点あたり何点加点・減点というルールが決められています。実際の点数表(競技規則ではScale of Value, SOVと呼ばれています)を見てみたい方はCommunication No. 2000を開いてみてください。

www.isu.org

また、ジャンプ・ステップ・スピンのそれぞれについて、「こういうことをしたら・こんな感じだったらGOEに考慮しましょう」というチェックリストがあります(これも上のファイルに記載されています)。で、今回取り上げたジャンプ前のイーグルは、そのチェックリストの中の “clear recognizable steps/free skating movements immediately preceding element” つまり「ジャンプ直前に明確で分かりやすいステップ、またはフリースケーティングムーブメントを行う」に該当するというわけです(たぶん)。

GOEの詳しい採点方法についてはこのサイトが最新のはず。

tororinnao.info

で、これをジャンプ前だけでは飽き足らずジャンプ後にまで付けてしまったのが2シーズン前の羽生結弦

youtu.be

動画は2014年グランプリシリーズ中国杯ショートプログラム。演技最初の3Aはジャンプ前後にイーグルを付けています。姿勢が制限されるというだけ(それでも難しいですが)のジャンプ前ならまだしも、ジャンプ後にイーグルを付けるためには極めてクリーンに着氷してその後のスケーティングの流れを作ることが必須となるので本当に大変なことです。また、ジャンプ後のイーグルは、GOE加点要素の “good extension on landing / creative exit” に該当するというメリットもあります。ちなみに、この羽生のイーグルでジャンプを挟む一連の動作はスケオタに「イーグルサンド」と呼ばれるようになりました。

イーグルから3Aの実施を集めた動画がこちら。というかこんな動画あるのか……。

イーグル - 3A 集 by あみの スポーツ/動画 - ニコニコ動画

ちなみにイーグルの状態に加えて膝から上を一気に後ろに反らした状態を「クリムキンイーグル」と言います。日本人でよくやっているのは宇野昌磨

www.youtube.com

動画は2015年グランプリファイナルのフリースケーティング(オペラ『トゥーランドット』より)。演技終盤、『誰も寝てはならぬ』のクライマックスをクリムキンイーグルで魅せます。

クリムキンやべえ!!!!! と思ったあなたはこちらへどうぞ。

www.nicovideo.jp

さらに余談。イーグルは両足のスケーティングラインが揃っていますが、これを前後にずらすと「イナバウアー」になります。そうです。イナバウアー」はスケーティング時の足の形を指す言葉であり、上体を反らしながら滑ることを言うのではありません。今日この記事を見てくださった方はお願いなのでこれだけでも覚えて離脱していってください。ちなみに上体を反らしている部分は「レイバック」と言います。上体を反らしていれば大体何でもレイバックなので「レイバックスピン」もあります。

荒川静香のレイバックイナバウアーがこちら。

www.youtube.com

動画は2006年トリノオリンピックフリースケーティングより。演技終盤、『誰も寝てはならぬ』の主題に入ったところでレイバックイナバウアーを披露しています。足を180度に開き、さらに脚を大きく前後にずらしているのが分かると思います。

コンパルソリー

f:id:Nagoyan:20161014230501p:plain

第2話Bパート中盤、勝生がリンクで練習していたのは「コンパルソリー」。

そもそも「フィギュアスケート」は、直訳すれば「図形のスケート」。フィギュアスケートが競技として始まった時は、スケート靴のブレードのエッジに乗って、いかに氷上に綺麗な図形を描けるかを競っていました。これが実際にフィギュアスケート競技会に導入された時の種目名が「コンパルソリーフィギュア」、日本では「規定」とも呼ばれていました。1990年を最後に競技種目としてのコンパルソリーは完全に廃止されましたが、そもそも氷上で綺麗な図形を描くことはすなわち上質なスケーティングにつながるため、現在でも練習の際にコンパルソリーのようなことが行われています。このコンパルソリーの練習によって一気にフィギュア界のスターダムへと駆け上がっていったのが日本の町田樹

インタビュー 町田 樹|キヤノン・ワールドフィギュアスケートウェブ

ちなみに当時のコンパルソリーの競技風景はこちら。言ったら悪いですが競技風景としてはだいぶ地味です……。

www.youtube.com

えばらさんのおかげで勝生のコンパルソリーに気付きました。ありがとうございます。ちなみにこのシーンの時僕はTwitterを見てました(集中しろ)。

『愛について』2つの編曲

作中ではEros/Agapeと同じ曲について2つの編曲が用意されていますが、今年は偶然似たようなプログラムに挑戦する選手がいます。それは浅田真央

www.youtube.com

www.youtube.com

曲はどちらもバレエ音楽『恋は魔術師』より、ファリャ作曲のRitual Fire Dance。ショートプログラムはピアノ編曲、フリースケーティングはオーケストラ編曲になっており、ショート最後のポーズがフリー冒頭のポーズと同じになっているところからも2つ合わせて1つのプログラムになっていることが分かります。膝をやっているようなニュースを見かけて心配ですが、今年も浅田の良い演技が見れたらいいなと思うのみです。

*1:フィギュアスケートで言う「要素」は「技術要素」、つまりジャンプ・ステップ・スピンのことを指します

ヴィクトルの演技を見てジャンプを見分けられるようになろう

ユーリ!!! on ICE第1話を見た皆さん、生きてますか? 僕は5回ぐらい死にました。

ところでこんなツイート

をしたところ、案の定「よくわからんけどすごいことは分かった」「というかそもそもジャンプの見分け方とか分からん」という声が散見されました。フィギュアスケートのジャンプは6種類しかないので体操の技などよりも名前が覚えやすいですが、ジャンプの踏み切りは一瞬で行われるためかなり集中して見なければならず、僕もちゃんとフィギュアスケートを見始めてからリアルタイムでジャンプをコールできるようになるまで2シーズンぐらいかかりました。

せっかくユーリ!!! on ICEを見るなら、ジャンプの見分け方を覚えてハイレベルな作画にスケオタ的視点から感動できるようになろう! そして10月下旬から始まるグランプリシリーズでもジャンプを判別しながら演技を見られるようになろう! ということで、この記事では第1話のBパートで流れたヴィクトル・ニキフォロフフリースケーティングの演技中の画像を使ってジャンプの種類を説明していきます。演技中のジャンプ構成の順番は無視して、判別しやすい順に載せていきます。

ジャンプの説明に「右足」「左足」という言葉が出てきますが、これはすべて多くの選手が行う反時計回りで回転する場合です。時計回りで回転する場合は左右を逆転して読み替えてください。時計回りで回転するジャンプに慣れるには、(両方とも女子ですが)アメリカのアシュリー・ワグナーやイタリアのカロリーナ・コストナーの演技を見ることをお勧めします。

アクセル

f:id:Nagoyan:20161006222156p:plain

この画像の進行方向は右。つまり前向きに跳び上がります。前向きに跳ぶのはアクセルのみなので一番分かりやすいです。着氷するときは必ず後ろ向きなので、「N回転アクセル」と言ったらN+0.5回転することになります。基礎点も6種類の中では一番高いです*1。回転数を数える時は「パッと見の回転数に1を足す」または「最初に後ろ向きになったところで0から数え始める」のがオススメです。

現実のフィギュアスケートでアクセルが得意な選手は日本の浅田真央……と言いたいところなのですが、ここではあえて伊藤みどり無良崇人を挙げておきます。

www.youtube.com

2本目のジャンプがトリプルアクセル。着氷が乱れてますが、ジャンプの回転方向によろけているので回転しすぎたということが分かります。おそロシ……日本だった……。

www.youtube.com

無良の筋肉で跳ぶジャンプも絶品。トリプルアクセルは3本目のジャンプですが、余裕があって回転がゆっくりなのでダブルアクセルと見間違えそう……。

トーループ

f:id:Nagoyan:20161006224621p:plain

写真は演技終盤の4回転トーループより。ここから左足のトーで蹴って跳び上がります。左足のトーで蹴るジャンプはトーループのみ。基礎点は一番低いですが、N回転アクセルよりもN+1回転トーループの方が点数が高くなるように設定されています。

フリップ

f:id:Nagoyan:20161006225212p:plain

フリップとルッツは右足のトーで蹴って跳び上がります。違いは跳び上がる時の左足の向き。左足が体の中心に対して内側(インサイド)になっているのがフリップです。

4回転フリップは4月に日本の宇野昌磨が昨シーズンの最終戦であるコーセイ・チームチャレンジカップで成功し、10月1日に行われたジャパンオープン(ここでも成功)ではギネス記録認定式が行われました。

www.youtube.com

これが世界初の4回転フリップ。現実では宇野昌磨の代名詞が4回転フリップになってほしい。

ルッツ

f:id:Nagoyan:20161006222105p:plain

ルッツもフリップと同じ右足のトーで蹴って跳び上がりますが、その時の左足は体の中心に対して外側(アウトサイド)になります。左足の向きが回転軸に向かって反しているという大変な跳び方であり、アクセルを除いて一番基礎点が高いジャンプになっています。

跳び上がる直前に左足を回転軸から反らすという不自然な動きをしなければならないので、跳び上がる瞬間に左足がグニっと外側に傾いたらルッツ、ということが多いです。ちなみに、ルッツを跳ぼうとして跳び上がる瞬間に左足がインサイドになってしまうと「エッジエラー」という判定を受け、基礎点が0.7倍になってしまいます(フリップを跳ぼうとしてルッツになってしまった時も同じ)。フィギュアスケートの採点は原則として「実施しようとした(事前に提出した)要素 (attempted)」ではなくあくまで「実際に実施された要素 (executed)」を基準とします*2が、ルッツとフリップの判定はその例外ということになります。

www.youtube.com

4回転ルッツと言えば中国の金博洋 (Boyang JIN)。昨シーズンシニアに上がってきたと思ったらいきなり4回転ルッツを成功させたのは(ジュニアから追ってなかった人は)びっくりしたと思います。この映像はショートプログラムでタンゴ・アモーレというフィギュアスケートではよく聞くタイプのタンゴですが、フリープログラムは「映画『ヒックとドラゴン』より」という年相応の曲目でかわいかったのでそちらもお勧めです。

サルコウ

f:id:Nagoyan:20161006234229p:plain

残り2つはトーで蹴らずにエッジが着氷したまま脚力で跳び上がるタイプのジャンプです。サルコウは右足を左に一気に振り上げて、左足のエッジで踏み切って跳び上がります。右足を振り上げる直前に両脚がハの字になることが多いです。サルコウトーループの次に点数が低く、場合によっては4回転トーループよりも4回転サルコウの方が得意という選手もいます。日本だと村上大介

www.youtube.com

演技冒頭で2本の4回転サルコウに成功しています。特に2本目のサルコウは跳び上がる直前に脚がハの字っぽくなっているのが分かるかと。演技終盤のステップシークエンスで解説が笑っているのは足がズルッと滑ってしまったからです。グランプリシリーズの大会で1位になれる貴重なチャンスで緊張してたのかも?

ループ

f:id:Nagoyan:20161006235245p:plain

ループは右足のエッジで踏み切ってグイっと回転します。ジャンプの着氷は普通右足で降りるので、連続*3で跳ぶコンビネーションジャンプのセカンド・サードにはトーループかループしか付けられないことになります。上の画像は後半のトリプルアクセルの後のセカンドジャンプ。画像のように、跳び上がる直前に脚を曲げるため、椅子に座るような姿勢になることが多いです。

日本人選手でループジャンプを挙げるなら浅田真央。コンビネーションジャンプのセカンドに3回転ループを付けることもよくあります。

www.youtube.com

2本目のジャンプはトリプルフリップトリプルループ。セカンドジャンプは助走がほぼ無いところから脚力だけで跳ばなければいけないので、特に爪先で蹴ることができないループをセカンド以降に付けるのは大変です。まあ浅田はそんなことも知らず後半でトリプルフリップダブルループダブルループの3連続ジャンプを跳んでいるわけですが……。

演技中にこなさなければいけない要素を覚えよう

J SPORTSのサイトが超優秀です。みんなもスカパーを契約しよう。

www.jsports.co.jp

詳しいルールを読みたければ、ISUがテクニカルパネルハンドブックを公開しているのでそれを読むことをお勧めします。

Single & Pair Skating - ISU

JSFが日本語訳を作っているはずなんだけど見当たらない……。ありました!!!

|Japan Skating Federation Official Results & Data Site|

このサイトの「ISU ハンドブック」→「シングル」が該当する競技規則書です。

フィギュアスケート要素検索

このページのおかげで気づきました。このページも要素記号について詳しい説明が書いてあるので興味のある方はぜひ見てみてください。

略号を使ってTwitterで快適に演技の実況をしよう

ジャンプの見分け方を覚えても、演技を見ながらツイートする*4ときにわざわざ「トリプルアクセル」とか入力するのは大変です。そこで、実施された演技の詳細が記載される「ジャッジスコア」のようにジャンプやスピンを略号で表すと、入力字数を減らせて何かと便利です。

ジャンプ

アクセル: A, ルッツ: Lz, フリップ: F, ループ: Lo, サルコウ: S, トーループ: T

ジャンプ記号の前に回転数を付けて、例えばトリプルアクセルは ‘3A’ のように表記します。コンビネーションジャンプは ‘3A+3T’ のように表記します。さらに、ジャンプ記号の後に特別な記号を付けることがあります。

  • 演技後半のジャンプ(基礎点1.1倍): x
  • 回転不足(1/4から1/2不足している。V列点数): <
  • ダウングレード(1/2以上不足している。1回転下の点数になる): <<
  • エッジエラー(ルッツ・フリップの踏み切りを間違えている。V列点数): e (edge)
  • 不明瞭なエッジ(減点されないが、GOEに影響する): ! (attention)
  • 3回転以上の同じ種類のソロジャンプの2回目(3回転以上の同種ジャンプは最低限片方をコンビネーションジャンプに組み込まなければいけない。基礎点0.7倍): +REP (repeat)
  • ショートプログラムで単独ジャンプではあるがジャンプコンビネーションと判断された要素(ショートプログラムでは必ず1本のジャンプコンビネーションを入れなければいけない): +COMBO
  • ジャンプシークエンス(ステップなどを挟んで連続ジャンプを跳ぶ。基礎点0.8倍): +SEQ (sequence)

「基礎点 n 倍」は、基礎点にnを掛けて小数第3位を四捨五入するので小数第2位まで数えます。一方「V列点数」は点数表のV列を参照します。V列の点数は基本的には基礎点の0.7倍を小数第2位で四捨五入して小数第1位まで丸めたものなので、前者の「基礎点0.7倍」とは微妙に異なる点数になります。テレビの実況・解説ではV列点数のことも「基礎点0.7倍」と言っていることが多いですが、厳密に点数を計算したい場合はこれらの点数がわずかに異なることに注意したいところです。

「点数表」はISUが公開しているScale Of Valuesを指します。ここには男女シングル(とペア)のすべての技術要素とその点数が載っています(以下はPDFファイルです)。

http://static.isu.org/media/1003/2000-sptc-sov-and-goe-2016-2017_revised-july-14.pdf

その他にも、リザルトに記載されることはありませんが、ジャンプ中に片手を挙げるとtano, 着氷後に氷上で勢い余って回転してしまうとot (over turn), 着氷後に着氷した方とは反対側の足を「おっと」といった感じで氷上に出してしまうことをso (stepping out), 着氷後に転倒してしまうことをfallと付記することで、そのジャンプがどんな状況だったかを示すことがあります。

スピン

スピンの種類は、(スピン前にジャンプ(フライング)をするか・しないか)×(途中で軸足を変えるか・変えないか)×(シット・キャメル・アップライト・コンビネーション(1つのスピンで複数の姿勢シット・キャメル・アップライトすべての姿勢になる(16-17シーズンから改定)))で、16通りの略号があります。フライングエントリーの場合はF, 軸足を変えた場合はCを付け、その後に姿勢*5を示すS/C/U/Coのいずれかを付記するとスピンの略号が完成します。一番大変なフライングチェンジフットコンビネーションスピンの場合は ‘FCCoSp’ となります。さらに、スピンの場合はどれだけスピン中にいろいろな要素をこなしたかによって1から4の「レベル」が認定されます。ジャッジスコアの略号では ‘FCCoSp4’ のように表記されます。

ステップ

ステップにはステップシークエンス: StSq と、イーグルやイナバウアーなどのムーブズ・イン・ザ・フィールドを伴うコレオグラフィック・シークエンス: ChSq の2種類のみです。StSqは1から4のレベル(レベル1も認定されなければB)が認定されますが、ChSqは必ずレベル1でGOEのみで評価するため常に ChSq1 になります。

実例

ユーリ!!! on ICE第1話で披露されたヴィクトル・ニキフォロフの演技構成を略号で書き下すと、4Lz 4F 3A CCSp FSSp 4Sx 3A+3Lo+2Lox StSq 3Lzx 3Fx 4T+3Tx CCoSp3p となります。尺の関係か ChSq っぽいところが見当たらなかったのと、3A+3Lo+2Loxの信憑性がかなり低い(勝生の3Loっぽいのはヴィクトルの3Aを流し直したのかもしれない?)など問題点が少しありますが、フィギュアスケートのプログラムを略号で書き並べるとだいたいこんな感じの雰囲気になります。

実際のフィギュアスケートの国際大会ではジャッジスコアなどを含むプログラム終了後即座にを公開することになっており、まあだいたい「isuresults 2016 world」みたいな感じでググるとPDFファイルがすぐ見つかるので適当に読んで慣れていきましょう。ジャッジスコアが読めるようになれば、大会の映像が見られなくても選手ごとにどんな演技が行われたかを確認することができるのでとても便利です。

最初から要素に集中して演技を見ていてもよく分からなくて楽しくないので、まずは好きな選手を見つけてウォッチすることをお勧めします。EDの表現にもあったようにたいていの選手はTwitterInstagramで他の選手と仲良くしているのでそっちを楽しむのもアリだと思います。もしフィギュアスケートの魅力に気付いたならば、10月下旬から行われる現実のグランプリシリーズも観戦しましょう! 日本のテレビ放送は解説が要素をコールしてくれるので、自分で判別できるようになるためにはとても勉強になります。

www.tv-asahi.co.jp

それでは皆さん、良いスケオタライフを! 誤記や加筆点などあったらコメントよろしくお願いします。

変更履歴

2016-10-08 21:30頃 +COMBOを+REPに修正しました。+COMBO記号はもう使われていない……はず。

2016-10-09 01:50頃 ヴィクトルの演技構成ラストのCoSpをCCoSp3pに訂正しました。コンビネーションスピンで3つの基本姿勢すべてをこなすと3pという記号が付きます。

2016-10-15 21:45頃 コンビネーションスピンの要件を最新のルールに変更しました。16-17シーズンからはコンビネーションスピンは3つの基本姿勢全てをこなすことが前提となるため、上の行で書いてあるような従来のCoSp3pという表記は単にCoSpという表記になり、2姿勢しかこなせなかった場合はV記号が付いて基礎点が減点される(点数表のV列の点数になる)という考え方になります。ヴィクトルの演技構成の略号例については2p/3p表記があるシーズンだろうという仮定(根拠は特にない……)に基づいて変更はしません。昔のプロトコル(ジャッジスコア)を読むには当時の変更前のルールを把握していないといけないので大変です……。

2016-10-15 22:00頃 ISU競技規則の日本語訳があるページを発見したので追記しました。このページどうやって検索するんや……。

2016-10-22 19:50頃 +COMBO記号は男女シングルのショートプログラムで使われるので追加しました。

2016-11-04 23:55頃 2週間以上前に付いていたブコメに今さら気づいたので修正しました(+COMBO記号についてはタイムリーなタイミングで修正してましたが)。ブコメは僕に通知来ないので間違っている点があったらコメント欄でお知らせください😢

2016-12-25 22:45頃 毎日安定して200PV以上あって怖くなってきたのでattempted/executedの部分の文をより詳細にし、「プロトコル」と書いていた部分を主に「ジャッジスコア」に修正しました。ジャンプに関わる記号と点数計算の少し詳細なところも記述しました。

*1:余計に半回転しなければいけないからというよりは前向きに跳び上がることがめちゃくちゃ難しいからという方が大きいです

*2:3回転アクセルを跳ぼうとしたら途中で体が開いてしまい2回転アクセルになってしまった場合は「2回転になってしまった3回転アクセル」という視点ではなく「空中での回転で大変余裕があった2回転アクセル」として採点される、という感じです。多分

*3:プリティーリズムでは5連続ジャンプとか跳んだりしますが、フィギュアスケートのルールでは1回のコンビネーションジャンプでは3連続までしか跳べません

*4:まあ演技見るときぐらい集中しろという話もありますが……

*5:ISUのテクニカルパネルハンドブックの真ん中らへんに参考画像が載っています

Codeforces 119 A Cut RibbonをDPで解く

簡単なDPの良問を見つけたので「DP分からんから競プロやめます」という人向けにメモ(僕もEditorialが理解できずに辞めかけました(8割嘘です)).

問題

長さが  n のリボンがある.これを長さ  a, b, c を単位としてカットしたい.カットされたリボンが最も多くなるようにカットした時のリボンはいくつになっている?

考え方

リボンをカットしていくことをシミュレーションしようとすると,リボンがどんどん短くなっていくので実装するときに配列の位置と残りのリボンの長さが逆になってややこしい.この問題を,「長さ  a, b, c のリボンのパーツがそれぞれ無限にある.これらをつなぎ合わせて長さ  n のリボンを作る.リボンのパーツが一番多くなるように作った時,使われたパーツの数はいくつ?」というふうに読み替えてみる.

入力例の1つ目 n, a, b, c = 5, 5, 3, 2 で考える.まず,リボンの配列 r を作り,r[a], r[b], r[c] をそれぞれ1で初期化する.この初期化は,はじめにリボンの位置0からそれぞれ長さa, b, cのリボンのパーツを置いたパターンを記録しておくことを意味する.r はこの事象が重ね合わせで記録されていることになる.

[0, 0, 0, 0, 1] ■■■■■
[0, 0, 1, 0, 0] ■■■□□
[0, 1, 0, 0, 0] ■■□□□
↓
[0, 1, 1, 0, 1]

次に,この配列 r を頭から走査していく.r[i] が1以上ということは,ここまで一番多くのリボンパーツを使って長さ  i までやって来たことを意味する.このとき,位置 i から新たに長さa, b, cのリボンパーツをつなげることを考える.位置 i に対して長さ  e のリボンパーツをつなげることを考えよう.このとき,長さ  i + e まで他の方法でより多くのパーツを使ってたどり着いているかもしれない.すなわち,今まで長さ  i のリボンを作ってきた方法にさらに長さ  e のリボンパーツをつなげる方法と,他のやり方で長さ  i + e のリボンを作る方法のうち,より多くのパーツを使っている方法を選ばなければならない.これは r[i + e] = max(r[i] + 1, r[i + e]) として表せる.maxの第1項が前者,第2項が後者に対応している.

上の例でシミュレーションしてみよう.インデックスはリボンの長さ,中の数はそこまで使った一番多くのパーツ数を意味している.

 1, 2, 3, 4, 5  ← i
[0, 1, 1, 0, 1]
    ↑ 最初は i = 2
[0, 1, 1, 2, 1]
    i     ↑ 長さは 2 + 2 = 4. パーツの個数は 1 + 1 = 2.
つまり,この時点では長さ4まで長さ2のリボン2つを使ったと言える
[0, 1, 1, 2, 2]
    i        ↑ 長さは 2 + 3 = 5. パーツの個数は 1 + 1 = 2.
長さ5のリボンを1つ使うより,長さ2と3のリボンを1つずつ使ったほうが
個数が多くなるので r[5] が更新された
長さ2に長さ5のリボンパーツをつなぐと必要な長さ5からはみ出るので省略

[0, 1, 1, 0, 1]
       ↑ 次は i = 3
[0, 1, 1, 2, 2]
             ↑ 長さ: 3 + 2 = 5, 個数: 1 + 1 = 2
r[5] は長さ2と3のリボンパーツをつなげた2個が最大だった
長さ3と2のリボンパーツを使っても個数は同じ
これよりあとのパターンは全て全体の長さ5をはみ出すので省略

この手続きを右端まで繰り返すと,r[5] は長さ5まで最も多くのパーツを使った時の個数が記録されていることになる.したがって,答えとしては r[5] をそのまま出力すればよい.

プログラム

import std.stdio, std.algorithm, std.string, std.conv, std.range;

void main() {
    int n, a, b, c;
    readf("%d %d %d %d\n", &n, &a, &b, &c);
    dp(n, a, b, c).writeln;
}

int dp(int n, int a, int b, int c) {
    int[] r = new int[n + 1];
    // 初期化の部分
    foreach (e; [ a, b, c ]) {
        // パーツがそもそも全体の長さを超えている時がある
        if (e <= n) {
            r[e] = 1;
        }
    }

    foreach (int i, ref e; r) {
        // 何らかの方法で i までたどり着いたなら……
        if (e > 0) {
            // 長さ a, b, c のそれぞれのパーツをつなげるやり方について
            // (長さを変数 cut で表す)
            foreach (cut; [ a, b, c ]) {
                // つなげても n からはみ出さなければ
                if (i + cut <= n) {
                    // r[i] に長さ cut のリボンをつなぐ時と
                    // 他の方法で r[i + cut] までたどり着く時のうち
                    // より個数の多い方を記録する
                    r[i + cut] = max(r[i] + 1, r[i + cut]);
                }
            }
        }
    }

    // 上の走査によって,r[n] には長さ n のリボンを作る時の最大のパーツ数が記録されている
    return r[n];
}