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矮小

井の中の蛙

YOI#3で覚えるフィギュアスケート技術要素(スパイラル・スピン基本姿勢・ショート構成)

こんにちは。試合に勝ってもいないのにカツ丼を食べました。今回は第3話にこっそり仕込まれていたフィギュアスケートの技術系のネタと、試合を見るときに抑えておくべきショートプログラムの構成についてを2人の演技に合わせて確認していきます。

スパイラル

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温泉 on ICEのポスター。ユーリ、ユリオと名前が書かれた隣で2人が脚を上げた姿勢を取っています。このように、フリーレッグ(スケーティングしていない方の脚)を腰より高く上げて一定の姿勢を保ったまま滑ることをスパイラルと言います。右のユーリのように上体を地面に平行に近くなるまで下げて、片脚を上げた状態でスパイラルを「アラベスクスパイラル」と言います。アラベスクという名前の姿勢はもともとバレエに存在しているもので、これに近い状態で滑っていることから名付けられました(たぶん)。一方左のユリオのようにフリーレッグを頭上で手づかみしたまま滑ることを「ビールマンスパイラル」と言います。ちなみにこの姿勢のままスピンすると「ビールマンスピン」になります。「ビールマン」はスイス出身の女子フィギュアスケート選手から来ています。

デニス・ビールマン - Wikipedia

ちなみにフリーレッグをつかんだスパイラルには単なる「キャッチフットスパイラル」もありますが、どう違うのか分からなかったので競技規則を確認してみましょう。スピンの章に “Biellmann Position” という項目があります。

Biellmann position is a difficult variation of an upright position (UB) when the skater’s free leg is pulled from behind to a position higher than and towards the top of the head, close to the spinning axis of the skater. Like other categories of difficult spin variations, Biellmann position counts once per program (Short or Free) – first time it’s attempted.

In free skating a spin that starts with layback position (at least 2 revs) and continues with Upright Biellmann variation is still called a layback spin.

フリーレッグを頭上近く・回転軸付近で掴むという2つの条件を満たすことが条件っぽい。

スパイラルではないですがせっかくビールマンの話が出たので。「私はもっと脚が高く上がるから」と言ってビールマンポジションをさらに発展させた「キャンドルスピン」を競技会で披露したのがロシアのユリア・リプニツカヤ

www.youtube.com

動画は2014年冬季オリンピックソチ大会フリースケーティングの『シンドラーのリスト』。演技後半、ジャンプを全て終えた後の2本目のスピンの最後の姿勢がキャンドルスピン。頭が完全に脚と腕の間に挟まれています。赤い衣装が炎に見えてまさにキャンドルという感じがして良いですね。ちなみにキャンドルスピンという名前はリプニツカヤ自身が命名しました。かわいい。

ちなみに昔の競技規則ではスパイラル自体が1つの技術要素となっており、スパイラルシークエンスとかコレオグラフィックスパイラルとかいう名前でしたが、2012-2013シーズンからはコレオグラフィックシークエンスに吸収合併されました。

スピンの基本3姿勢

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上の項目のシーン直後の「勇利復活、バンザーイ!!」のシーン。このシーンにはスピンの基本姿勢が3つのうち2つ含まれています。手前でしゃがんで片脚を手で支えて回っているのがシットスピン(SSp)。それ以外の3人はアップライトスピン(USp)です。シットスピンはしゃがんでいるので分かりやすいですが、アップライトスピンの定義が「軸足が直立しているか少し曲がっていてキャメルスピンではないもの」なのでキャメルスピンを先に説明しなければいけません。キャメルスピン(CSp)は、上体が氷面に対して平行に近い状態になっており、フリーレッグが後方に伸びている姿勢を言います。 “free leg backwards with the knee higher than the hip level” なので、定義としてはフリーレッグの膝がお尻より高い位置になければいけません。そのためキャメルスピンは基本的には上体・フリーレッグが氷面に平行になって、全体としてTの字になっていることが多いです。

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プリセツキーが温泉 on ICEの演技で披露した途中のスピンにもキャメルスピンが。この姿勢はスパイラルの項目で上げたビールマンスパイラルの姿勢に近いですが、フリーレッグは回転軸近くまで来ているものの上体が氷面に対して平行に近い状態になっているので、キャメルスピンの「難しい変化 (difficult variation)」の1つとして数えられます。ちなみに前の段落で上げたキャメルスピンの定義には続きがあって、“however Layback, Biellmann and similar variations are still considered as upright spins” と書いてあるので、ビールマンスピンや、上体を大きく後ろにそらしてスピンする「レイバックスピン」はキャメルスピンではなくアップライトスピンの難しい変化として考慮されます。ただし、レイバックスピンを単独で行うと要素記号として LSp が与えられ、全ての単独スピンの中で最も基礎点が高くなります。ややこしいね。スピンの項目は競技規則でも一番記述が多くて読むのが大変です(別に読まなくてもいいですが)。

まあ最初はしゃがんでたらシットスピン、脚を後ろに伸ばして上体を前に倒していたらキャメルスピン、それ以外はアップライトスピンということが分かればだいたい大丈夫です。1回のスピンでこの3つの基本姿勢を全てこなすとスピンコンビネーションになります。

ショートプログラムの演技構成

ジャンプの見分け方が分からない人は ヴィクトルの演技を見てジャンプを見分けられるようになろう - 矮小 を上から、英語の記号が全然分からん人は同記事の下の方を読んでからどうぞ。

さて、今日の本番はここからです。せっかく本編でショートプログラムでが披露されたので、2人の演技を見ながらショートプログラムの要件を確認していきましょう。かなり長いので難しいな〜と思ったら適当に読み流してください。そして現実世界のグランプリシリーズを見たらまた戻ってきてください。ちょっとだけ分かるようになってるかも。

ショートプログラムでは以下の要素を実施しなければいけません:

  • ジャンプ
    • 2Aまたは3A(単独)1.
    • ステップ、またはそれに準ずるフリースケーティング動作からの3回転または4回転ジャンプ(単独)2.
    • 2-3, 3-3, 4-2, 4-3 の組み合わせの回転数となるジャンプコンビネーション 3.
  • スピン
    • フライングスピン8回転以上(着氷姿勢が1姿勢のスピンと異なる)4.
    • CSSp または CCSp 各足6回転以上ずつ 5.
    • CCoSp 各足6回転以上ずつ 6.
  • ステップシークエンス
    • StSq 7.

アクセルジャンプは1.でしか跳べません。また2.の単独ジャンプは3.で使ったものとは別のものにしなければいけません。3.のジャンプコンビネーションの組み合わせには同じジャンプを2つ含めても構いませんが、単独ジャンプで4回転ジャンプを跳んでジャンプコンビネーションにも4回転を入れる場合は単独で行った4回転とは別の種類を入れなければいけません(4T 4T-3Tのような場合は2つ目の4Tのみがno value(3Tは加点される*1))。

スピンはかなり制限が厳しいです。フライングスピン以外ではフライングエントリーしてはいけないので、男子シングルのショートプログラムのスピンの組み合わせは FCSp CSSp CCoSp または FSSp CCSp CCoSp のどちらかとなります(4.でアップライトスピンをしてもいいですが、基礎点が最も低いのでシニアのショートプログラムで見ることはほぼありません)。

ステップシークエンスは StSq のみです。コレオグラフィックシークエンス ChSq はフリースケーティングのみで行われます。

完全に覚えるのは少し大変ですが、とりあえず「ジャンプ3、スピン3、ステップ1。ジャンプコンボとスピンコンボは1個ずつ、単独アクセルを必ず跳ばなければいけない」という感じでふわっと覚えておけば何とかなります(というかショートで要素違反が起こることはほぼ無いので最悪無理に覚えなくてもいい)。

それでは実際に今回披露されたプリセツキーと勝生の演技構成を見ていきましょう。

1人目のプリセツキーの演技は、実施されたものの順に見ていくと 3A(1.) FSSp(4.) (C?)CSp(足換すれば5.) 4S+3T(3.) 4T(スリーターンから単独ジャンプ、2.) StSq(7.) CCoSp(6.) となります。またここでは詳しくは検証しませんが4Sがダウングレード(アクセル以外の前向き踏切はダウングレード)、3Tが回転不足気味(回転が1/4以上足りない)な感じだったので、もしそうだと仮定すれば最終的なプロトコルは 3A FSSp (C)CSp(*?) 4S<<+3T< 4Tx StSq CCoSp となります。

せっかく上の項目でスピンの3つの基本姿勢を確認したので、プリセツキーの演技でスピンの姿勢の推移を詳しく見ていきましょう。最初のFSSpはフライングエントリー。

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これでFが付くことが確定。

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左足でシットスピン。FSSpの完成です。

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間に滝の回想を挟んで次はキャメルスピン(上体が氷面に対して平行に近い・足が後ろに伸びて膝がお尻より高い!)。足換えの描写が無いですが、どこかで足換えをしていないと5.の要件を満たしません。このキャメルスピンは肩のラインが表面に対して垂直になっているので、キャメルスピンの「難しい変化」のうちCamel Sidewaysになっていることが分かります(「難しい変化」の姿勢についてはISU Technical Panel Handbookのスピンの章の最後のページに写真がたくさん載ってるので見てみてください)。

2つ目のCCoSp。最初は左足でシットスピン

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これで現時点ではSSpです。

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次に右足に足換えしてキャメルスピン。フライングエントリーしておらず、足換えのCが付くのでこれでCCoSpが確定しました。

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キャメルの基本姿勢から足を掴んで難しい変化に持っていきます。肩のラインが氷面に対して平行なのでCamel Forwardかな?

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最後にもう一度シットスピン。今回はここで演技が終わりましたが、スピンコンビネーションの要件を満たすためにはこの後さらにアップライトスピンをこなさなければいけません。逆に言えば、最後にアップライトスピンを追加できれば「足換え後に3つの基本姿勢を全てこなす」を満たせるのでスピンのレベルを1つ上げることができます(スピン・ステップのレベルの要件はScale of Valueの点数表が終わった次のページに書いてあります)。

次に勝生の演技構成は StSq(7.) (C?)CSp(足換えすれば5.) (回想中にFSSp? 4.) 3A(1.) 4S(モホークから単独ジャンプ、2.) 4T+3T(3.) CCoSp(6.)。4Sは回転不足っぽかったので、全て並べると StSq (C?)CSp(*?) (FSSp?) 3Ax 4S<x 4T+3Tx CCoSp となります。何とジャンプを全て後半に持ってきた上にステップシークエンスから始まるという驚きの筋肉プログラム*2……と思いきや、似たような構成をメドベデワがやってましたね。

www.youtube.com

動画は2016年世界選手権ショートプログラム、映画『白夜の調べ』より。演技構成はなんとCCoSp3p4 StSq4 3Fx 2Ax 3Lo+3Tx FCSp4 LSSp4と、こちらも全てのジャンプを後半に持ってきています。この大会の女子シングルショートプログラムで全てのジャンプを後半に持ってきていたのはメドベデワのみでした。

勝生のスピンの構成も見てみましょう。最初はCSp。フライングせずにキャメルから入ります。

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ミナコ先生の回想が終わったら勝生のスピンも終わってました。フライングエントリーしないキャメルのみのスピンであれば、足換えをしないと5.の条件に当てはまらずno valueになってしまいます。

続いて最後のCCoSp。これは(これより前にCoSpを行なっていなければ)6.に当てはまるので評価されます。

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最初は左足でキャメル。この時点ではCSp。

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(たぶん)非基本姿勢*3(基本姿勢のどれでもない姿勢)を経て……

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さりげなく足換えしてシットスピン。これでCCoSpが確定。

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最後にアップライトスピン。これで3つの基本姿勢をこなせました。この図のように両足に均等に体重を乗せて2足で回転することをクロスフットスピンと言って、この姿勢が成功したと認定されるとアップライトスピンの「難しい変化」のうちUpright Straightに該当し、スピンのレベルを1個上げることができます。

自分で記事を書いてみて分かりましたがスピンの姿勢って変化すると(特にキャメルとアップライトが)かなり曖昧になりますね……。スピンについてはあまり詳しくないのでもし間違っているところがあればコメントにてお知らせください(勉強中の人は他のサイトや動画も当たりましょう!!)。次回は特に技術的な要素が本編中に無ければ第1話のヴィクトルの昨シーズングランプリファイナルのフリースケーティングの演技構成を詳しく見ていこうかなと思っているのでよろしくお願いします。

改定履歴

2016-10-22 03:20:00頃 プリセツキーのスピンでFCCoSpとしていたのを勝生のモノローグでFSSpとCCSpに分割しました。また勝生の構成で回想中に実施していた可能性があるとして、ショートの構成として足りなかったFSSpを捕捉しました。アニメ上の演出の問題もあるので考えることが増えて大変だ……。えばらさんありがとうございました。

2016-10-23 22:45:00頃 ショートプログラムのジャンプ構成で一部日本語がおかしかったので訂正しました。夜中に文章を書くのはやめましょう。

2016-10-23 22:55:00頃 アニメの演出を意識してスピンをいい感じに解釈したら普通にショートプログラムの構成になったので文章を一部変更しました。プリセツキーのCCoSpもカウントされるので * 記号を外しました。拡散されてから内容を変更しまくるのやめろ。

*1:昨シーズンまではこの場合3Tも巻き添えを食ってno valueになっていました

*2:普通はジャンプが一番体力を使うので最初に持ってきたいが、演技後半に実施すれば基礎点が1.1倍になるのでそうもいかない

*3:パッと見アップライトっぽいが基本姿勢の繋ぎなのもあって非基本姿勢っぽい? 識者の意見を求めます