ヴィクトルの演技を見てジャンプを見分けられるようになろう
ユーリ!!! on ICE第1話を見た皆さん、生きてますか? 僕は5回ぐらい死にました。
ところでこんなツイート
1枚目から4Lz 4F 4S 4Tの踏み切り ルッツとフリップちゃんと踏み分けてる…… #yurionice pic.twitter.com/ZGrkX9vYev
— Yousack (@antefest) October 5, 2016
をしたところ、案の定「よくわからんけどすごいことは分かった」「というかそもそもジャンプの見分け方とか分からん」という声が散見されました。フィギュアスケートのジャンプは6種類しかないので体操の技などよりも名前が覚えやすいですが、ジャンプの踏み切りは一瞬で行われるためかなり集中して見なければならず、僕もちゃんとフィギュアスケートを見始めてからリアルタイムでジャンプをコールできるようになるまで2シーズンぐらいかかりました。
せっかくユーリ!!! on ICEを見るなら、ジャンプの見分け方を覚えてハイレベルな作画にスケオタ的視点から感動できるようになろう! そして10月下旬から始まるグランプリシリーズでもジャンプを判別しながら演技を見られるようになろう! ということで、この記事では第1話のBパートで流れたヴィクトル・ニキフォロフのフリースケーティングの演技中の画像を使ってジャンプの種類を説明していきます。演技中のジャンプ構成の順番は無視して、判別しやすい順に載せていきます。
ジャンプの説明に「右足」「左足」という言葉が出てきますが、これはすべて多くの選手が行う反時計回りで回転する場合です。時計回りで回転する場合は左右を逆転して読み替えてください。時計回りで回転するジャンプに慣れるには、(両方とも女子ですが)アメリカのアシュリー・ワグナーやイタリアのカロリーナ・コストナーの演技を見ることをお勧めします。
アクセル
この画像の進行方向は右。つまり前向きに跳び上がります。前向きに跳ぶのはアクセルのみなので一番分かりやすいです。着氷するときは必ず後ろ向きなので、「N回転アクセル」と言ったらN+0.5回転することになります。基礎点も6種類の中では一番高いです*1。回転数を数える時は「パッと見の回転数に1を足す」または「最初に後ろ向きになったところで0から数え始める」のがオススメです。
現実のフィギュアスケートでアクセルが得意な選手は日本の浅田真央……と言いたいところなのですが、ここではあえて伊藤みどり、無良崇人を挙げておきます。
2本目のジャンプがトリプルアクセル。着氷が乱れてますが、ジャンプの回転方向によろけているので回転しすぎたということが分かります。おそロシ……日本だった……。
無良の筋肉で跳ぶジャンプも絶品。トリプルアクセルは3本目のジャンプですが、余裕があって回転がゆっくりなのでダブルアクセルと見間違えそう……。
トーループ
写真は演技終盤の4回転トーループより。ここから左足のトーで蹴って跳び上がります。左足のトーで蹴るジャンプはトーループのみ。基礎点は一番低いですが、N回転アクセルよりもN+1回転トーループの方が点数が高くなるように設定されています。
フリップ
フリップとルッツは右足のトーで蹴って跳び上がります。違いは跳び上がる時の左足の向き。左足が体の中心に対して内側(インサイド)になっているのがフリップです。
4回転フリップは4月に日本の宇野昌磨が昨シーズンの最終戦であるコーセイ・チームチャレンジカップで成功し、10月1日に行われたジャパンオープン(ここでも成功)ではギネス記録認定式が行われました。
これが世界初の4回転フリップ。現実では宇野昌磨の代名詞が4回転フリップになってほしい。
ルッツ
ルッツもフリップと同じ右足のトーで蹴って跳び上がりますが、その時の左足は体の中心に対して外側(アウトサイド)になります。左足の向きが回転軸に向かって反しているという大変な跳び方であり、アクセルを除いて一番基礎点が高いジャンプになっています。
跳び上がる直前に左足を回転軸から反らすという不自然な動きをしなければならないので、跳び上がる瞬間に左足がグニっと外側に傾いたらルッツ、ということが多いです。ちなみに、ルッツを跳ぼうとして跳び上がる瞬間に左足がインサイドになってしまうと「エッジエラー」という判定を受け、基礎点が0.7倍になってしまいます(フリップを跳ぼうとしてルッツになってしまった時も同じ)。フィギュアスケートの採点は原則として「実施しようとした(事前に提出した)要素 (attempted)」ではなくあくまで「実際に実施された要素 (executed)」を基準とします*2が、ルッツとフリップの判定はその例外ということになります。
4回転ルッツと言えば中国の金博洋 (Boyang JIN)。昨シーズンシニアに上がってきたと思ったらいきなり4回転ルッツを成功させたのは(ジュニアから追ってなかった人は)びっくりしたと思います。この映像はショートプログラムでタンゴ・アモーレというフィギュアスケートではよく聞くタイプのタンゴですが、フリープログラムは「映画『ヒックとドラゴン』より」という年相応の曲目でかわいかったのでそちらもお勧めです。
サルコウ
残り2つはトーで蹴らずにエッジが着氷したまま脚力で跳び上がるタイプのジャンプです。サルコウは右足を左に一気に振り上げて、左足のエッジで踏み切って跳び上がります。右足を振り上げる直前に両脚がハの字になることが多いです。サルコウはトーループの次に点数が低く、場合によっては4回転トーループよりも4回転サルコウの方が得意という選手もいます。日本だと村上大介。
演技冒頭で2本の4回転サルコウに成功しています。特に2本目のサルコウは跳び上がる直前に脚がハの字っぽくなっているのが分かるかと。演技終盤のステップシークエンスで解説が笑っているのは足がズルッと滑ってしまったからです。グランプリシリーズの大会で1位になれる貴重なチャンスで緊張してたのかも?
ループ
ループは右足のエッジで踏み切ってグイっと回転します。ジャンプの着氷は普通右足で降りるので、連続*3で跳ぶコンビネーションジャンプのセカンド・サードにはトーループかループしか付けられないことになります。上の画像は後半のトリプルアクセルの後のセカンドジャンプ。画像のように、跳び上がる直前に脚を曲げるため、椅子に座るような姿勢になることが多いです。
日本人選手でループジャンプを挙げるなら浅田真央。コンビネーションジャンプのセカンドに3回転ループを付けることもよくあります。
2本目のジャンプはトリプルフリップ→トリプルループ。セカンドジャンプは助走がほぼ無いところから脚力だけで跳ばなければいけないので、特に爪先で蹴ることができないループをセカンド以降に付けるのは大変です。まあ浅田はそんなことも知らず後半でトリプルフリップ→ダブルループ→ダブルループの3連続ジャンプを跳んでいるわけですが……。
演技中にこなさなければいけない要素を覚えよう
J SPORTSのサイトが超優秀です。みんなもスカパーを契約しよう。
詳しいルールを読みたければ、ISUがテクニカルパネルハンドブックを公開しているのでそれを読むことをお勧めします。
JSFが日本語訳を作っているはずなんだけど見当たらない……。ありました!!!
|Japan Skating Federation Official Results & Data Site|
このサイトの「ISU ハンドブック」→「シングル」が該当する競技規則書です。
このページのおかげで気づきました。このページも要素記号について詳しい説明が書いてあるので興味のある方はぜひ見てみてください。
略号を使ってTwitterで快適に演技の実況をしよう
ジャンプの見分け方を覚えても、演技を見ながらツイートする*4ときにわざわざ「トリプルアクセル」とか入力するのは大変です。そこで、実施された演技の詳細が記載される「ジャッジスコア」のようにジャンプやスピンを略号で表すと、入力字数を減らせて何かと便利です。
ジャンプ
アクセル: A, ルッツ: Lz, フリップ: F, ループ: Lo, サルコウ: S, トーループ: T
ジャンプ記号の前に回転数を付けて、例えばトリプルアクセルは ‘3A’ のように表記します。コンビネーションジャンプは ‘3A+3T’ のように表記します。さらに、ジャンプ記号の後に特別な記号を付けることがあります。
- 演技後半のジャンプ(基礎点1.1倍): x
- 回転不足(1/4から1/2不足している。V列点数): <
- ダウングレード(1/2以上不足している。1回転下の点数になる): <<
- エッジエラー(ルッツ・フリップの踏み切りを間違えている。V列点数): e (edge)
- 不明瞭なエッジ(減点されないが、GOEに影響する): ! (attention)
- 3回転以上の同じ種類のソロジャンプの2回目(3回転以上の同種ジャンプは最低限片方をコンビネーションジャンプに組み込まなければいけない。基礎点0.7倍): +REP (repeat)
- ショートプログラムで単独ジャンプではあるがジャンプコンビネーションと判断された要素(ショートプログラムでは必ず1本のジャンプコンビネーションを入れなければいけない): +COMBO
- ジャンプシークエンス(ステップなどを挟んで連続ジャンプを跳ぶ。基礎点0.8倍): +SEQ (sequence)
「基礎点 n 倍」は、基礎点にnを掛けて小数第3位を四捨五入するので小数第2位まで数えます。一方「V列点数」は点数表のV列を参照します。V列の点数は基本的には基礎点の0.7倍を小数第2位で四捨五入して小数第1位まで丸めたものなので、前者の「基礎点0.7倍」とは微妙に異なる点数になります。テレビの実況・解説ではV列点数のことも「基礎点0.7倍」と言っていることが多いですが、厳密に点数を計算したい場合はこれらの点数がわずかに異なることに注意したいところです。
「点数表」はISUが公開しているScale Of Valuesを指します。ここには男女シングル(とペア)のすべての技術要素とその点数が載っています(以下はPDFファイルです)。
http://static.isu.org/media/1003/2000-sptc-sov-and-goe-2016-2017_revised-july-14.pdf
その他にも、リザルトに記載されることはありませんが、ジャンプ中に片手を挙げるとtano, 着氷後に氷上で勢い余って回転してしまうとot (over turn), 着氷後に着氷した方とは反対側の足を「おっと」といった感じで氷上に出してしまうことをso (stepping out), 着氷後に転倒してしまうことをfallと付記することで、そのジャンプがどんな状況だったかを示すことがあります。
スピン
スピンの種類は、(スピン前にジャンプ(フライング)をするか・しないか)×(途中で軸足を変えるか・変えないか)×(シット・キャメル・アップライト・コンビネーション(1つのスピンで複数の姿勢シット・キャメル・アップライトすべての姿勢になる(16-17シーズンから改定)))で、16通りの略号があります。フライングエントリーの場合はF, 軸足を変えた場合はCを付け、その後に姿勢*5を示すS/C/U/Coのいずれかを付記するとスピンの略号が完成します。一番大変なフライングチェンジフットコンビネーションスピンの場合は ‘FCCoSp’ となります。さらに、スピンの場合はどれだけスピン中にいろいろな要素をこなしたかによって1から4の「レベル」が認定されます。ジャッジスコアの略号では ‘FCCoSp4’ のように表記されます。
ステップ
ステップにはステップシークエンス: StSq と、イーグルやイナバウアーなどのムーブズ・イン・ザ・フィールドを伴うコレオグラフィック・シークエンス: ChSq の2種類のみです。StSqは1から4のレベル(レベル1も認定されなければB)が認定されますが、ChSqは必ずレベル1でGOEのみで評価するため常に ChSq1 になります。
実例
ユーリ!!! on ICE第1話で披露されたヴィクトル・ニキフォロフの演技構成を略号で書き下すと、4Lz 4F 3A CCSp FSSp 4Sx 3A+3Lo+2Lox StSq 3Lzx 3Fx 4T+3Tx CCoSp3p となります。尺の関係か ChSq っぽいところが見当たらなかったのと、3A+3Lo+2Loxの信憑性がかなり低い(勝生の3Loっぽいのはヴィクトルの3Aを流し直したのかもしれない?)など問題点が少しありますが、フィギュアスケートのプログラムを略号で書き並べるとだいたいこんな感じの雰囲気になります。
実際のフィギュアスケートの国際大会ではジャッジスコアなどを含むプログラム終了後即座にを公開することになっており、まあだいたい「isuresults 2016 world」みたいな感じでググるとPDFファイルがすぐ見つかるので適当に読んで慣れていきましょう。ジャッジスコアが読めるようになれば、大会の映像が見られなくても選手ごとにどんな演技が行われたかを確認することができるのでとても便利です。
最初から要素に集中して演技を見ていてもよく分からなくて楽しくないので、まずは好きな選手を見つけてウォッチすることをお勧めします。EDの表現にもあったようにたいていの選手はTwitterやInstagramで他の選手と仲良くしているのでそっちを楽しむのもアリだと思います。もしフィギュアスケートの魅力に気付いたならば、10月下旬から行われる現実のグランプリシリーズも観戦しましょう! 日本のテレビ放送は解説が要素をコールしてくれるので、自分で判別できるようになるためにはとても勉強になります。
それでは皆さん、良いスケオタライフを! 誤記や加筆点などあったらコメントよろしくお願いします。
変更履歴
2016-10-08 21:30頃 +COMBOを+REPに修正しました。+COMBO記号はもう使われていない……はず。
2016-10-09 01:50頃 ヴィクトルの演技構成ラストのCoSpをCCoSp3pに訂正しました。コンビネーションスピンで3つの基本姿勢すべてをこなすと3pという記号が付きます。
2016-10-15 21:45頃 コンビネーションスピンの要件を最新のルールに変更しました。16-17シーズンからはコンビネーションスピンは3つの基本姿勢全てをこなすことが前提となるため、上の行で書いてあるような従来のCoSp3pという表記は単にCoSpという表記になり、2姿勢しかこなせなかった場合はV記号が付いて基礎点が減点される(点数表のV列の点数になる)という考え方になります。ヴィクトルの演技構成の略号例については2p/3p表記があるシーズンだろうという仮定(根拠は特にない……)に基づいて変更はしません。昔のプロトコル(ジャッジスコア)を読むには当時の変更前のルールを把握していないといけないので大変です……。
2016-10-15 22:00頃 ISU競技規則の日本語訳があるページを発見したので追記しました。このページどうやって検索するんや……。
2016-10-22 19:50頃 +COMBO記号は男女シングルのショートプログラムで使われるので追加しました。
2016-11-04 23:55頃 2週間以上前に付いていたブコメに今さら気づいたので修正しました(+COMBO記号についてはタイムリーなタイミングで修正してましたが)。ブコメは僕に通知来ないので間違っている点があったらコメント欄でお知らせください😢
2016-12-25 22:45頃 毎日安定して200PV以上あって怖くなってきたのでattempted/executedの部分の文をより詳細にし、「プロトコル」と書いていた部分を主に「ジャッジスコア」に修正しました。ジャンプに関わる記号と点数計算の少し詳細なところも記述しました。
*1:余計に半回転しなければいけないからというよりは前向きに跳び上がることがめちゃくちゃ難しいからという方が大きいです
*2:3回転アクセルを跳ぼうとしたら途中で体が開いてしまい2回転アクセルになってしまった場合は「2回転になってしまった3回転アクセル」という視点ではなく「空中での回転で大変余裕があった2回転アクセル」として採点される、という感じです。多分
*3:プリティーリズムでは5連続ジャンプとか跳んだりしますが、フィギュアスケートのルールでは1回のコンビネーションジャンプでは3連続までしか跳べません
*4:まあ演技見るときぐらい集中しろという話もありますが……
*5:ISUのテクニカルパネルハンドブックの真ん中らへんに参考画像が載っています